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障害者手帳を持つメリットとデメリット(精神障がい編)

2026.04.13

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◆はじめに

精神障害者保健福祉手帳を取得するかどうかは、多くの方にとってすぐに答えを出せることではありません。

「手帳を持つことで、まわりからどう思われるのだろう」「自分は本当に対象なのだろうか」「一度取得したら、ずっと持ち続けなければいけないのではないか」など、このような不安や迷いを感じるのはとても自然なことで、考えること自体が気持ちの負担になることもあります。

精神障害者保健福祉手帳は、精神疾患や発達障害などによって、日常生活や社会生活で困りごとが生じている方が、生活や働くことを少しでも安定させるために利用できる公的な制度です。取得するかどうか、いつ使うかは、すべて本人の意思に委ねられています。

この文章では、精神障害者保健福祉手帳のメリット(サービス)やデメリット(注意点)、取得・更新・返却方法について解説しています。
ご自身の状況に合わせて、必要なところだけを読んでいただければと思います。


◆精神障害者保健福祉手帳を取得するメリット(サービス)

精神障害者保健福祉手帳を取得すると、生活や働き方、経済面、気持ちの面で支援を受けられ、選択肢が広がる可能性があります。これらは必要に応じて利用でき、必ずしもすべてを使う必要はありません。

経済面では、障害者控除により所得税や住民税の負担が軽くなることがあります。また、公共交通機関の運賃割引や、携帯電話料金・NHK受信料の減免など、日常生活に関わる支援を受けられる場合もあり、通院や外出の負担が和らぐことがあります。

働き方の面では、「障害者雇用枠」という選択肢が生まれます。これは能力を制限する制度ではなく、体調や特性に配慮しながら働くことを前提とした仕組みで、通院への配慮や業務量の調整を受けられる場合があります。

さらに、手帳があることで体調や特性について合理的配慮として伝えやすくなり、様々なやり取りにおける心理的な負担が軽くなると感じる方もいます。

当事者の声より

ここで実際に障害者手帳を取得した当事者の方々に、どのようなときにメリットを感じるかを聞いてみました。

  • 都内だと、バスが半額になるのがかなり助かっています。手帳を見せれば民営バスでも一律料金の半額になるし、都営交通は無料なので、移動のハードルが一気に下がりました。
  • 映画館や美術館、テーマパークが安くなるのは正直ありがたいです。映画が1000円で観られるのは破格だと思いました。
  • JRや新幹線の割引が使えるので、帰省のときは特に助かりました。
  • 自立支援医療と併用すると、医療費の自己負担がかなり減ります。場合によってはほぼゼロになることもあって、家計的にも精神的にも楽になりました。
  • 障害者雇用枠に応募できるようになって、仕事の選択肢が広がりました。実際に就職できて、収入を得られるようになったのは大きかったです。
  • 「自分は手帳を持てるほどの状態だったんだ」と分かったことで、これまでのしんどさに理由がついて、気持ちが少し落ち着きました。

ここでメリットについて整理してみます。

① 税金の負担を軽くする支援

手帳を取得すると、全国共通で税金の負担が軽くなるメリットがあります。税法上の「障害者控除」の対象となり、所得税や住民税の控除を受けることができます。等級によって控除内容は異なり、1級の場合は特別障害者控除、2級・3級の場合は障害者控除が適用されます。また、この控除は本人だけでなく、扶養している家族が手帳を持っている場合にも対象となります。手続きは年末調整や確定申告で行うことができ、毎年の税負担が少しずつ軽減されることで、毎年の税負担が少しずつ軽減されます。

② 公共交通機関の割引利用

精神障害者保健福祉手帳による公共交通機関の割引は、近年少しずつ利用できる範囲が広がっています。JRや私鉄、地下鉄をはじめ、路線バスや高速バスでも割引が適用される場合があります。また、航空機やフェリー、タクシーについても、事業者や自治体によって割引制度が設けられていることがあります。これらの制度を利用することで、通院や外出にかかる交通費を抑えることができます。

③ 公共料金・通信費への支援

精神障害者保健福祉手帳を取得することで、生活に直接関わる公共料金や通信費といった固定費の負担が軽減される場合があります。条件を満たせば、NHK放送受信料が全額または半額免除される制度があり、家計の支出を抑える助けになります。また、携帯電話やスマートフォンについても、各通信会社が手帳所持者向けの割引プランを用意していることがあります。さらに、自治体によっては水道料金などの公共料金が減免される制度を設けている場合もあります。

④ 公共施設・文化施設を利用しやすくする支援

精神障害者保健福祉手帳を取得すると、自治体や各施設の取り組みにより、公共施設や文化施設を利用しやすくなる支援を受けられる場合があります。美術館や博物館、動物園などでは入場料の割引が設けられていることがあり、施設によっては映画館やテーマパークなどの娯楽施設でも割引が適用されることがあります。また、本人だけでなく介助者1名までを対象とする制度を設けている場合もあります。

⑤ 障害者雇用枠で働く選択肢

精神障害者保健福祉手帳を持つことで、障害者雇用枠での就労に応募できるようになります。これは、企業が法定雇用率に基づいて行っている採用枠で、障害のある方が安心して働ける環境づくりを前提としています。通院や体調への配慮があらかじめ想定されている場合が多く、無理のない働き方を相談しながら進めることができます。また、ハローワークや就労支援機関によるサポートを受けられる点も特徴です。自分の体調や特性に合わせて、長く働き続けるための一つの選択肢として考えられています。

⑥ 医療・福祉サービスにつながりやすくなる

精神障害者保健福祉手帳を持つことで、医療や福祉サービスにつながりやすくなる場合があります。例えば「自立支援医療(精神通院医療)」を利用すると、診察料や薬代の自己負担を抑えることができます。この制度自体は、手帳の申請に必要とされる通院期間である6か月より前から申請できますが、手帳申請用の診断書を使って自立支援医療の申請を兼ねられるケースもあります。そのため、同時に申請することで診断書代の負担を抑えられることがあります。さらに、就労移行支援などの障害福祉サービスを利用しやすくなったり、自治体が独自に行っている助成制度の対象となったりすることもあります。

⑦ 就職困難者として雇用保険の受給期間が延びやすくなる

障害者手帳を所持している人は、障害の内容や等級により就職困難者として扱われることがあります。

その際、雇用保険の受給期間は、離職理由や年齢、被保険者期間などによって異なりますが、就職困難者に該当すると給付日数が手厚くなる場合があります。

⑧ 配慮を制度として伝えられること

精神的な体調や特性について、自分の言葉だけで説明することは、大きな負担になりがちです。手帳がない場合、「甘え」「努力不足」と受け取られるなど、周囲の無理解に直面することも少なくありません。
精神障害者保健福祉手帳があることで、制度に基づいた客観的な形で、職場や学校、支援機関などに対して状況を伝えられます。その結果、必要な配慮が理解されやすくなり、誤解やすれ違いが減りやすくなります。

⑨ 必要に応じて使える制度

大切な点として、手帳による支援やサービスは必ず使わなければならないものではありません

「必要な制度だけ使う」というスタンスでよく、「今は使わない」「周囲に伝えない」という選択も、すべて本人の自由です。
「いざというときの備え」として持っておくことで、安心できる方もいます。

 

なお、精神障害者保健福祉手帳には、1級・2級・3級といった等級があります。利用できる支援や割引の内容は、この等級によって一部異なる場合があります。

たとえば、税金の控除額や公共料金の免除の範囲が、等級によって変わることがあります。ただし、すべての支援が等級で厳密に分かれているわけではありません。

等級によって内容が変わる制度と変わらない制度があり、各自治体によりサービス内容が異なることもあるため、詳細は自身の自治体で確認することが大切です。


◆精神障害者保健福祉手帳のデメリット(注意点)

精神障害者保健福祉手帳にはさまざまな支援がありますが、必ずしもメリットだけがあるというわけではありません。あらかじめそうした点を知っておくことも大切です。

まず、申請や更新の際には医師の診断書が必要となり、この診断書は保険適用外のため、一般的に数千円程度の自己負担が発生します。更新は原則2年ごとに行われるため、その都度費用がかかる点は、継続的な負担として意識しておく必要があります。

また、役所や病院での申請・更新手続きには、書類の準備や来庁・受診などが必要で、時間や体力を要します。体調が安定しない時期には、こうした一連の手続き自体が大きな負担に感じられることも少なくありません。

さらに、手帳を持つことで「自分は障がい者なのだ」と強く意識し、戸惑いや抵抗感、気持ちの揺れを感じる方もいます。等級の判定や更新時の審査によって結果が変わる可能性があることも、不安や緊張につながる場合があります。

プライバシーの面でも考える場面があります。手帳を持っていることを誰にどこまで伝えるかは各人の自由ですが、障害者雇用枠の利用などでは開示が必要になる場合もあり、その判断に悩むこともあります。

このように、精神障害者保健福祉手帳は支援につながる一方で、費用や手続き、そして気持ちの面でも一定の負担が伴います。制度をどう活用するかは一人ひとりで異なるため、自身の体調や心の状態に合わせて、無理のない選択を検討していくことが大切です。

当事者の声より

さきほどと同様に障害者手帳を取得した当事者の方々に、どのようなときにデメリットを感じるかを聞いてみました。

  • 最初の申請手続きがとにかく複雑で、正直かなり面倒でした。慣れればなんとかなりますが、最初はハードルが高いです。
  • 診断書代が数千円かかるのと、二年に一度の更新が地味に負担です。
  • 更新や受け取りのたびに役所に行かなければならないのが大変でした。フルタイムで働き出すと、時間を作るのが本当に難しいです。
  • 手帳を使ったときに、無言で雑な対応をされたことがあって、不快に感じたことがありました。
  • 自分の中にある「障がい者」という言葉への偏見に直面して、手帳を持つことが恥ずかしいと感じる瞬間もありました。
  • 一般雇用に応募したら、手帳を持っているという理由で障害者雇用しか選べない企業があったのはショックでした。


◆手帳取得による心理的負荷をどうするか

デメリットの一覧を見てみると、金銭的・時間的な負担以上に、心理的な負荷の大きさが心に残る方も多いのではないでしょうか。
「手帳を持つ自分」を想像して不安になることは、決して特別なことではなく、誰にとっても自然に湧き上がる感情だと言えます。
その迷いや抵抗感を無理に否定する必要はありません。

また、精神障害者保健福祉手帳は、取得しないという選択も認められています。
制度を利用するかどうかは、その人の置かれた状況や価値観によって異なります。

大切なのは、周囲の期待ではなく、ご自身が納得できる選択をすること。
次に、実際に悩みながら選択をしてきた当事者の声を見ていきましょう。

当事者の声より

Q.障害者手帳を取得した時の心理的負荷について教えてください

  • 正直、心理的負荷はありました。手帳を取るということは、「自分は障がい者なんだ」と突きつけられる感覚があって、劣等感や抵抗感が生まれました。
  • 周囲に知られたくなくて、しばらくは隠していました。どう見られるのかが怖かったです。
  • 最初から「どうせ該当するだろう」と分かっていたので、思ったほどショックは大きくありませんでした。
  • むしろ、状態がはっきりしたことで安心できました。

Q.その心理的負荷をどう乗り越えたのでしょうか?

  • 時間が解決してくれた、というのが一番正直なところです。
  • 「やるしかない」と割り切りました。
  • 手帳の申請結果を「自分は本当に障がい者なのか?」という障害の判定に使いましたが、おそらく受理されると分かっていたので、結果を見ても納得して受け止められました。
  • 障がい者枠で就職して、実際に収入を得られるようになったことで、気持ちが一気に前向きになりました。
  • 正直、特別な方法があったわけではなく、「とにかく頑張る」「前に進む」ことで乗り越えた部分も大きいです。
  • 手帳を取ったことで、これまでのつらさにちゃんと理由がつき、自分を責めすぎなくなったのは大きかったと思います。


◆精神障害者保健福祉手帳の取得方法

精神障害者保健福祉手帳は、本人の希望によって申請する制度です。

取得までの基本的な流れ

  1. 1.主治医に障害者手帳の取得について相談します
  2. 2.自治体の障害福祉担当窓口で新規申請用の申請書を受け取ります(※)
  3. 3.主治医に診断書の作成を依頼し、受け取ります
  4. 4.診断書や申請書など、必要書類をそろえて窓口に提出します
  5. 5.自治体での審査を経て手帳が交付され、窓口で受け取ります

※病院側で診断書の様式を保持しているなど、役所に向かわなくても大丈夫なことがあります。

申請の条件として、精神疾患の初診日から6か月以上経過していることが必要とされています。申請から交付までは、自治体にもよりますが、12か月程度かかることが一般的です。

本人が手続きできない場合

体調が優れず、外出や手続きが難しい場合には、

  • 家族による代理申請
  • 相談支援専門員
  • 医療ソーシャルワーカー

などの支援を受けることができる場合もあります。
無理をせず、まずは市区町村の窓口に相談することが勧められています。

また、障害年金を受給している場合、医師の診断書の代わりに「年金証書等の写し」で申請ができます。その場合、年金等級と手帳等級は原則対応します。


◆精神障害者保健福祉手帳の更新について

精神障害者保健福祉手帳には、有効期限があります。継続して手帳を利用するためには、定期的な更新手続きが必要です。

有効期限は原則2年間で、更新申請は有効期限の3か月前から可能です。期限を過ぎてしまうと、税金の控除や各種割引、福祉サービスが一時的に利用できなくなることがあります。そのため、余裕をもって手続きを進めることが大切です。自治体からは更新の連絡が自動的に来ないことが多く、特に注意が必要です。

更新手続きの流れ

  1. 1.障害者手帳に記載されている有効期限を確認します
  2. 2.自治体の障害福祉担当窓口で更新用の申請書を受け取ります(※)
  3. 3.主治医に診断書の作成を依頼し、受け取ります
  4. 4.診断書や申請書など、必要書類をそろえて窓口に提出します
  5. 5.自治体での審査後、新しい手帳が交付され、窓口で受け取ります

※病院側で診断書の様式を保持しているなど、役所に向かわなくても大丈夫なことがあります。

更新の申請から交付までも、申請と同様に12か月程度かかることが一般的です。

更新時の注意点

  • 症状や生活状況の変化により、等級が変更されることがあります
  • 更新を忘れて有効期限が切れていた場合、自治体によっては「更新」ではなく「新規申請」となることがあります

更新のたびに、不安や負担を感じる方も少なくありません。その場合も、一人で抱え込まず、支援者や窓口に相談してみてください。

また、新規取得時と同様に、障害年金を受給している場合、医師の診断書の代わりに「年金証書等の写し」で更新ができます。その場合、年金等級と手帳等級は原則対応します。


◆精神障害者保健福祉手帳の返却について

精神障害者保健福祉手帳は、不要になった場合や本人が希望した場合、返却(返納)することができます。

手帳を返却する主なケースは「症状が落ち着いたとき」や「今は制度を利用しないと判断したとき」などです。

返却は、市区町村の担当窓口で手帳を提出することで手続きができます。


◆おわりに

障害者手帳は、人を一つの枠に当てはめたり、可能性を制限したりするためのものではありません。
その人の状態や状況に合わせて、生活を少しでも楽にするための選択肢を増やす制度です。

取得するかどうか、更新するかどうか、今は使わないという判断も含めて、すべては本人の意思が尊重されます。

この文章が、精神障害者保健福祉手帳の取得ついて考える際の材料となり、ご自身にとって納得のいく選択をするための一助になれば幸いです。
また、すでに手帳を取得されている方にとっても整理をするための一助になれば幸いです。


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