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配慮のある職場で、長く働き続けるためのポイント (精神障がい編)

2026.04.20

コラム イメージ

◆はじめに

本コラムでは、就職先を探している方や現在の職場で働き続けられるか不安を感じている方を主な対象として、精神障がいのある人の就労を取り巻く現状と、「働き続ける」という視点の大切さを整理していきます。

精神障がいのある人の場合、就職後早い段階で離職に至るケースも少なくありません。その背景には、体調やストレスといった個人要因に加え、職場での配慮や相談体制など環境面の課題があります。離職が起こりやすい理由を整理し、働き続けている人の工夫を紹介しながら、「我慢」ではなく働き方や職場との調整として就労継続を捉え、自身の特性に応じた働き方のヒントを示しています。

 

 

◆障害者雇用の実際

近年、障害者雇用では働く機会が広がることに加えて、「安心して長く働き続けられる環境かどうか」がより重視されるようになっています。なかでも、精神障がいのある方の雇用においては、就職後の早期離職が起こりやすい傾向があることが、さまざまな調査から示されています。では、精神障がいのある方は、どのような理由で離職に至ることが多いのでしょうか。障害者職業総合センターの調査において、精神障がいのある方が前職を離れた理由(複数回答、n1,554)を見ていくと、いくつかの共通した傾向が浮かび上がっています。

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図 [前職]具体的な離職理由【複数回答】

障害者職業総合センター「障害のある求職者の実態等に関する調査研究」のデータより弊社にて作成

 

離職理由として最も多く挙げられているのは「障害・病気のため」であり、体調や症状の変化、ストレスへの対応の難しさが影響していると考えられます。

 また、人間関係や業務内容とのミスマッチなど、職場環境や支援体制の工夫によって軽減できる可能性のある要因も、一定数含まれている点は見逃せません。

 では、早期離職に至らず、働き続けることができた人たちは、何が違っていたのでしょうか。各種調査や支援現場での知見からは、いくつかの共通点が浮かび上がっています。

 

  • 障がい特性や必要な配慮について、あらかじめ職場と共有されていた
  • 業務内容や勤務時間は、無理のない形で調整されていた
  • 上司や同僚、支援機関など、相談できる相手や場があった
  • 体調の変化に応じて、早い段階で対応できる仕組みが整っていた

 

精神障がいのある方の働き方では、まず就職することだけでなく、その後も安心して働き続けられることが大切です。そのためには、不安や希望を共有しながら、働き続けるまでのプロセスを企業と一緒に考えていくことが重要です。早期離職は、必ずしも本人の努力不足によって起こるものではなく、職場側の理解や制度のあり方が影響している場合も少なくありません。企業にとっても、採用と離職を繰り返すことは大きな負担となるため、定着を見据えた支援に取り組むことは、中長期的な経営の安定にもつながります。

下記は身体障がい者、知的障がい者、精神障がい者の定着率を比較したグラフとなります。精神障がいのある方は、他の障がい種別と比べて早期離職の割合が高い傾向にあるため、離職を防ぐための工夫がより重要となります。

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図 障害別にみた職場定着率の推移

図表は「障害者の就業状況等に関する調査研究」のデータより弊社にて作成

 

では、早期離職に至ることなく働き続けている人たちは、具体的にどのような工夫を重ねてきたのでしょうか。

 

 

◆早期退職しないために何が出来るか

① 自身の体調・特性を把握し、「無理の兆候」に早めに気づく

精神障がいのある方の早期離職には、体調の悪化や「いつもと違う」と感じる不調のサインを見過ごしてしまい、結果として無理を重ねてしまうことが関係しているケースが多くあります。「頑張りすぎること」や「不調を我慢してしまうこと」は、結果として職場への定着を難しくする要因になりやすいものです。

特に重要なのは、「不調が突然起きた」のではなく、事前にサインが出ていたにもかかわらず、気づかれないまま過ごされていたケースが少なくないという点です。体調が十分でない状況にあっても、業務を優先して無理を重ねてしまう人は少なくないことが指摘されています。

 

こうした無理が本人の気持ちや意欲だけで継続的に調整できるとは限らず、結果として心身の負担が蓄積していくケースも報告されています。障害者職業総合センターの研究でも、精神障がいのある方は、不調を感じていてもそれを周囲に共有できないまま、結果として心身の限界に達してしまうことがあると報告されています。無理を続けた先に起こりやすいのは「慣れ」ではなく、疲労の蓄積や症状の再燃といったリスクです。

 

職場に定着している人ほど、自分の状態を振り返る視点を持ち、早めに対処していることも示されています。

大切なのは、日常の中で次のような工夫を取り入れることです。

 

  • 睡眠、集中力、疲労感、感情の変化など、不調のサインを言葉にして整理しておくこと
  • 「これ以上続くとつらくなる」という自分なりの目安を決めておくこと
  • 日々の体調や気分を、簡単にでもメモする習慣を持つこと

 

これらはいずれも、特別な準備を必要とせず、日常の中で無理なく取り入れやすい工夫と言えます。早期離職を防ぎ、安心して長く働き続けるためには、自分自身の状態を理解し、必要に応じて向き合っていく視点が大切となります。

 

② 困りごとは「悪化する前」に相談する

精神障がいのある方の早期離職には、体調の悪化や不調のサインが見逃されてしまうことが大きく影響していると考えられています。不調は突然生じるのではなく、睡眠の乱れや集中力の低下、疲労感や感情の変化など、事前に何らかのサインが表れている場合が少なくありません。

しかし、業務を優先して無理を重ねたり、不調を我慢したりすることで、結果的に心身への負担が蓄積し、症状の再燃や離職につながるケースが指摘されています。研究でも、不調を感じていても周囲に伝えないまま限界を迎えてしまう傾向が報告されており、疲労の蓄積が起こりやすいことが示されています。

 

内閣府の基本方針において合理的配慮は、本人による困難の認識と意思表明を前提としており、自己の状態を振り返り早期に対処する姿勢が制度上重視されています。不調のサインを言葉にして整理することや無理の限界となる目安を決めておくこと、体調や気分を簡単に記録する習慣を持つことが重要です。

また、業務の進め方や人間関係、体調と仕事のバランスなど、職場で感じる小さな困りごとを「我慢」して抱え込んでしまうことも早期離職につながりやすい要因です。初めは些細な違和感であっても、相談されないまま積み重なることで、体調悪化や欠勤、離職として表面化する場合があります。

 

問題が深刻化してからでは対応の選択肢が限られる一方で、早い段階で共有されれば、業務調整などの比較的簡単な対応で解決できることも多くあります。相談は問題行動ではなく、必要な配慮を考えるための重要な情報です。

職場定着とは問題が起きないことではなく、状況に応じて調整を続けられることです。上司や人事、外部支援機関など複数の相談先を活用し、困りごとが悪化する前に向き合うことが、安心して長く働き続けることにつながります。

 

③ 「配慮を受けること」をネガティブに捉えすぎない

障がいのある方が職場で合理的配慮について考える際、「周囲に申し訳ない」「評価が下がるのではないか」といった不安を抱くことは決して珍しくありません。こうした気持ちの背景には、配慮を「特別扱い」や「甘え」と捉える社会的な誤解が今なお根強く残っていることが挙げられます。

しかし、合理的配慮とは、障がいによって生じている不利を調整し、他の人と同じ土台で働くための環境や条件を整える工夫です。例外的な対応や優遇ではなく、働く権利を現実的に保障するための正当な取り組みとして位置づけられています。

 

実際に、合理的配慮が適切に行われている職場では、本人の心身の負担が軽減され、就労の継続や定着につながりやすいことが指摘されています。

不調を感じていながらも「まだ対応できる」「迷惑をかけたくない」と無理を重ね、支援や配慮を求めないまま働き続けた結果、就労継続が難しくなるケースも少なくありません。こうした状況は、個人の意欲や能力の問題として語られがちですが、配慮を申し出にくい職場環境や制度のあり方が影響している可能性もあります。

 

合理的配慮は一度決めたら終わりというものではなく、働き続ける過程で状況の変化に応じて調整や見直しが行われる性質のものです。「配慮を求めたら仕事を任せてもらえなくなるのではないか」と不安に感じる方もいますが、支援の現場では、必要な配慮が整理されている方ほど、役割や業務範囲が明確になり、力を発揮しやすくなる傾向が見られます。配慮を受けることは、できないことを強調する行為ではなく、自分が安定してできる働き方を説明するための手段と捉えることができます。

 

また、働き始めた当初は問題がなかった業務であっても、時間の経過とともに負担が大きくなることがあります。体調の変化や業務量・スピードの調整不足、環境の変化などにより、仕事内容と特性との間にズレが生じることは自然なことです。強い疲労感や緊張、不安の増大、意欲の低下といったサインは、能力不足ではなく、働き方を見直す必要性を示している場合があります。長く就労を続けている方ほど、定期的に業務内容や働き方を振り返り、必要に応じて調整しています。

 

配慮を受けることや働き方を見直すことに後ろめたさを感じる気持ちは、とても自然なものです。それでも合理的配慮は特別な要望ではなく、正当に認められた権利であり、長く安心して働き続けるために用意された大切な「道具」です。我慢を重ねることよりも、立ち止まって状況を見直し、調整を重ねていく姿勢こそが、安定した就労につながる前向きな選択と言えるでしょう。

 

④ 就労支援機関とつながりを持ち続ける

就職後、業務に慣れ、日常的な業務を大きな支障なく遂行できている状態が続くと、自身の中で「当面は支援機関に連絡しなくても大丈夫だ」と判断する方は少なくありません。このような判断は、業務や勤怠が表面的に安定していることや、就職直後には課題が顕在化しにくいことに基づくものであると考えられます。

 

しかし、障害者職業総合センターの研究では、職場定着に関する課題は就職後一定期間を経てから顕在化することが多く、本人が自覚する以前に支援が途切れることのリスクが指摘されています。

「もう大丈夫」という感覚は、支援不要を意味するというよりも、課題が未だ表面化していない一時的な安定状態を反映した主観的判断である可能性が高いと考えられます。

 

厚生労働省の調査や、前述の調査結果からも、この時期に支援との関係が途切れることが、職場定着を難しくする一因になると示されています。障害者福祉制度や支援機関は、就職そのものをゴールとするのではなく、就職後も生活面と就業面の両方を支え、働き続けるための基盤を整える役割を担っています。実証研究でも、就職後も定期的に、あるいは必要に応じて支援機関とつながっている方のほうが、離職に至りにくい傾向が確認されています。

 

仕事を始めてからは、環境の変化による疲労や、人間関係の小さな違和感などが、時間をかけて表れてくることが多くあります。支援機関と関係が継続している場合、本人が職場に直接伝えにくい内容を代弁したり、間に入って調整したりできたという効果も報告されています。

 

また、限界に近づいてから久しぶりに相談が入るケースでは、対応の選択肢が限られてしまいやすいことも指摘されています。支援は問題発生後の対処だけでなく、予防の段階でこそ力を発揮するものです。

 

支援機関は、状況を整理しながら一緒に考える伴走者でもあります。第三者として本人と職場の間に立つことで、整理しきれなかった思いや状況が言葉になり、職場向けの調整につながることもあります。就労状況が比較的安定している時期であっても、現状を共有しておくことは、その後の相談や調整を円滑にし、心理的負担の軽減にもつながります。

「支援を使い続けると自立できないのではないか」と感じる方もいますが、研究では、必要なときに支援を活用できる方ほど安定して働き続けられている傾向が示されています。

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図 就職後の支援機関の定着支援別にみた職場定着率の推移

図表は「障害者の就業状況等に関する調査研究」のデータより弊社にて作成

 

自立とは、すべてを一人で抱え込むことではなく、必要な支えを自分で選び、使えることでもあります。頻繁な面談でなくとも、緩やかなつながりを保つことには十分な意味があります。支援機関との継続的な関係は、万一の際のセーフティネットとなり、長く働き続けるための重要な土台となります。

 

 

◆まとめ

本コラムでは、精神障がいのある方が就職後に直面しやすい課題と、働き続けるための視点や工夫を整理してきました。調査や支援現場の知見から、早期離職は本人の努力不足ではなく、環境や支援の在り方に左右されることが分かっています。我慢を重ねるよりも、自身の状態に気づき、共有し、配慮や支援を活用しながら調整していく姿勢が職場定着につながります。

働き方は固定的なものではなく、状況に応じて見直していけるものです。本コラムが、自分に合った働き続け方を考える際の参考になれば幸いです。

 

 

◆参考文献

独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構・障害者職業総合センター 「障害者の就業状況等に関する調査結果2017

障害者職業総合センター 「障害のある求職者の実態等に関する調査研究」

障害者職業総合センター「精神障害者の職場定着及び支援の状況に関する研究」

内閣府「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」

厚生労働省「障害者への合理的配慮好事例集」

障害者職業総合センター「障害者の就業状況等に関する調査研究」

日本職業リハビリテーション学会「精神障害者の就労定着および離職に関する研究の動向」

厚生労働省「障害者就業・生活支援センターについて」

障害者職業総合センター「地域関係機関・職種による障害者の就職と職場定着の支援に関する研究」

 

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