Column
2026.05.19
発達障害のある人の就労においては、就職そのものだけでなく、継続して働き続けられるかどうかも判断される傾向があります。その働きやすさは、本人の能力だけでなく職場環境との相性にも大きく左右されます。本コラムでは、定着率や離職理由のデータをもとに課題を整理し、当事者の考え方から、長く働くための工夫や環境調整について考えます。
1)職場定着率の推移
障害者求人で就職した場合、1年後の定着率は約8割、一般求人(障がい非公開)の場合は3割という調査結果が報告されています。
障害者求人は業務や役割が整理され、困りごとも調整されていることを前提としています。こうした背景から、ミスマッチが起きにくく、双方にとって納得度の高い雇用につながりやすいと考えられます。
反対に、一般求人では障がいを開示しても配慮が十分に機能するとは限らず、調整の仕組みがなければかえって負担が増えることもあります。誤解を防ぐためには具体的な対応や自分なりの対処方法を示し、戦略的に伝える必要があります。そのため、職場がどのような配慮や調整が前提として用意されているかを確認していくことが重要です。
2)主な退職理由
発達障がいのある人の退職理由では「人間関係」「仕事内容の不一致」「配慮不足」が主な理由として指摘されています。これらは別々の問題に見えて、実際には関連して生じている場合が多いと考えられます。
発達障がいをもつ人は高い能力を発揮できる一方、「視線や会話の特徴」などからすれ違いや誤解が生じやすい傾向があります。
仕事の指示が抽象的だったり暗黙の理解を求められたりすると、業務にズレが生じやすくなります。これが調整されないまま続くと評価低下や人間関係の悪化につながり、ストレスや体調不良を経て離職することもあります。
職場選びでまず知っておきたいのは、発達障がいのある人の離職防止には「コミュニケーション支援」や「支援者の配置」が有効とされている点です。加えて、適切な配置や業務遂行のサポートも重要であり、業務内容そのものよりも「情報の伝わり方」や「人との関わり方の工夫」が、就労の継続に大きく関わっているといえます。
離職が少ない職場では、特別な支援に限らず、「分かりやすく伝える」「相談しやすい関係をつくる」「調整役を明確にする」といった基本的な工夫が効果を発揮しています。特に、上司や支援者による助言や定期的な対話が重視されている点が特徴です。
こうした職場では、「コミュニケーションの課題は本人だけの問題ではなく、環境によって調整できる部分が大きい。離職防止は個別対応ではなく、職場全体のマネジメント課題である」と捉えられています。
これらを踏まえると、職場選びの視点も見えてきます。求職者にとっては、自分に必要な配慮を整理したうえで、その前提が成り立つ職場かどうかを見極めることが重要です。業務内容の明確さ、指示の分かりやすさ、困りごとを相談できる環境があるかどうかは、事前に確認しておきたいポイントです。
就職先を選ぶ際には、「ここでなら働き続けられそうか」という視点を持つことが、結果的に働きやすさや生活の安定につながります。データや当事者の声を踏まえると、職場側の工夫だけでなく、求職者自身が事前に意識しておくべきポイントも明確になります。
発達障害のある方にとって重要なのは、「就職すること」そのものよりも、「就職後に安定して働き続けられるか」という点です。そのためには、職場側の配慮だけでなく、当事者自身の気づきや工夫も欠かせません。
ここでは、発達障害のある求職者が働き続けるために意識したいポイントを、当事者の視点に立って整理します。
①自分の特性を言語化する
就職活動では、「自分に何ができるか」「どのような強みがあるか」に意識が向きがちです。しかし、職場への定着を考えるうえでは、それと同じくらい「どのような場面で負荷が高くなりやすいか」を把握しておくことが重要です。
この点を自覚しないまま働き始めると、「うまくいかない」「理由ははっきりしないが消耗してしまう」と感じやすくなります。自分のつまずきやすいポイントを知ることは、仕事選びの精度を高めるだけでなく、自己否定を防ぐためにも大切な視点です。
発達障害のある人の職場定着は、能力だけで決まるものではありません。自分の特性を理解し、無理をしすぎない選択ができるかどうかが大きく影響します。無理に続けるのではなく、「続けられる形」を探していくことが、働き続けるための第一歩です。
また、定着のしやすさは、職種や業界のイメージよりも、日々の働き方の条件に左右されます。さらに、就職前の想定と実際の負荷にはズレが生じることも少なくありません。手順や役割の明確さ、見通しの立てやすさ、集中できる時間の有無などについては、理想ではなく「現実的に続けられる水準」で整理しておくことが重要です。
そのうえで大切になるのが、「どうすればうまく進められるか」「自分なりにどのような工夫をしているか」まで含めて言語化しておくことです。これにより、職場とのすり合わせがしやすくなり、無理のない働き方へとつながっていきます。
自分の傾向や対処法を振り返ることで、「なぜうまくいかなかったのか」が整理され、次に活かせる形になります。一度作って終わりではなく、実際の経験をもとに見直していくことで、より実用的なものへと育っていきます。
まずは、自分の「困りやすい場面」を3つ書き出すことから始めてみることをお勧めします。
②コミュニケーションを設計する
発達障害のある人が働き続けるうえでは、コミュニケーションを個人の努力だけに任せるには限界があります。発達障がいのある人のコミュニケーションの困難は、スキルや意欲よりも対人関係などのソフトスキル面にあると言われています。
特に、口頭指示や曖昧な表現が多い環境では業務理解に時間がかかります。その結果、評価の低下や誤解を招きやすくなり、離職リスクの上昇しやすくなります。
この問題を防ぐためにはコミュニケーションを「設計する」考え方が求められます。例えば、チェックバックや文面でのやり取り、定期面談など、仕組みで補う工夫が有効です。
このような工夫は苦手さの克服ではなく、ミスやすれ違いを防ぐためのものです。分かりやすく確認しやすい環境を整えることで、負担が軽減され、本来の力を発揮しやすくなります。
また、対人スキルを才能に任せず、誰もが安心して働けるように環境として設計するこうした考え方が重要になります。
コミュニケーションは能力であると同時に、環境で支えられる側面もあります。
③AIを活用する
発達障害は「克服すべき欠点」ではなく、「環境調整で負担を軽減できる特性」として捉えられるようになっています。こうした環境調整の一つとして、近年はAIも実用的な補助ツールとして活用され始めています。
発達特性は、曖昧な指示への対応や段取り、言語化に負荷がかかりやすいですが、AIは情報整理や手順化、言い換えを通じて思考の整理を支援します。その結果、段取りや言語化といった負担が発生しやすい工程を補う手段となります。
たとえば、メールやチャットの下書きや表現調整など、コミュニケーション整理の補助として活用できます。また、「質問の仕方が分からない」と感じる場面でも、AIで考えを整理することで対人ストレスを抑えながら情報にアクセスできます。
こうした活用は個人の工夫にとどまらず、企業現場でも広がっています。障害者職業総合センターの調査でも、デジタル技術の導入により業務の効率や正確性が向上する効果が報告されており、支援手段としての有効性が示されています。
AIは万能ではなく、誤情報の可能性もあるため、内容を確認しながら補助的に使うことが前提です。AIは負担の大きい工程を支える道具です。AIを補助として使うときは、AIでできる人になることを目的とするのではなく、無理なく仕事を続けられる形にすることを目的としましょう。
どれだけ工夫しても、必ずしも全ての職場が合うとは限りません。もしもいろいろな工夫をしてみても「合わない」と感じることもあるでしょう。場合によっては退職してしまうこともあると思います。スキル不足だったなどと落ち込む場合もあるかもしれません。
このようなときはあまり重く考えずに、「合わなかった経験は次に役立つはず」「失敗ではなく環境と特性の相性の問題かもしれない」という考え方も必要です。発達障がいのある人が長く働くためには、スキルを高めること以上に、自分の特性理解を深めていくことが重要です。
働いてみて「合わない」と感じることは、失敗ではなく環境と特性の相性の問題である場合が多いです。押さえておきたいのは、何が負担だったか、何か問題なかったかを振り返り次に活かすことです。経験を重ねる中で、自分に合う条件は明確になります。結果を失敗ではなく情報として捉えてみましょう。
「最初から合う職場」を探すのではなく、「ズレを言語化できる余地がある職場か」が重要と言えます。退職=失敗ではない。「これは無理」「これは意外と平気」というデータが残り、次の職場選びがより現実的になります。
ここまで定着のためのポイントを紹介しました。これら以外にも環境調整を前提とした合理的配慮やジョブコーチ、各種支援を受けるといった方法もあります。
発達障害のある人の就労は、能力よりも環境との相性や調整の有無に左右されます。無理に合わせず特性を理解し、支援を活用して一人で抱え込まないことや「合う環境を見つける」という考え方を持っておくとよいです。
本コラムで述べた内容は、就労支援の現場や公的機関の事例などで共有されてきた考え方を踏まえながら、筆者自身の視点として整理したものです。
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