Column
2026.07.01
はじめて障害者枠で応募して、スムーズに就職できる方もいらっしゃると思いますが、中には何度も選考に落ちてしまう方もいらっしゃると思います。障害者枠と一般枠とでは、仕事をはじめた後は配慮の有無などが異なってきますが、就職活動自体はどちらも甘いものではないかもしれません。
障害者枠で応募する前に他の方の経験をもとにシミュレーションをし、「仮に不合格になっても自分自身が否定されたのではない」などの心構えを持っておくことは大切だと考えます。
そこで本コラムでは、はじめて障害者枠での就職活動に取り組み、試行錯誤の末、現在は職場で活躍しているAさんの体験をご紹介します。
Aさんは40歳手前で障害者手帳を取得し、それまでのITエンジニアとしての働き方を見直すことになりました。体調の問題から、これまで通り働くことが難しいという現実の中で、障害者枠での応募を始めました。
応募の流れは次の通りです。

図1.不採用から合格に至る流れ
こうして並べると、「落ちた」という事実以上に、選択肢がどんどん減っていく過程が見えてくるように思います。
最初は「いくつか受ければどこか決まるだろう」と感じていたものが、不採用や辞退が続く中で、「受けられる求人がそもそも少ない」という現実にぶつかります。この感覚は、体験談から強く伝わってきます。
実際、障害のある人のほとんど全員が就職活動に不安を感じているというデータもあります。
この「不安」の中には、単なる面接の不安だけでなく、「次に応募できる求人があるのか」という不安も含まれているのではないかと思います。うまくいかないこと以上に、「もう受ける場所がないかもしれない」と感じることの方が、ずっとしんどい場面もあるのではないでしょうか。
障害者枠の就職活動では、「選考に落ちる」ことと同じくらい、「そもそも応募できる求人が限られている」という問題があるように感じられます。Aさんも、途中で「希望に合う求人が見つからない」という状況に直面しています。
仕事内容、通勤、体調、スキル、配慮――それらを一つずつ条件に入れていくと、応募できる求人はどんどん絞られていきます。この感覚は、求人への応募を実際にやってみないと分かりにくい部分かもしれません。
実際、ハローワークの検索結果では、障害者雇用のうち正社員求人は約10%程度にとどまる状況も見られます。(ハローワークインターネットサービスの求人検索ページの2026年6月25日時点の検索結果による)
つまり、雇用の形態自体にも制約がある場合が多いようです。
障害者雇用自体は増加傾向にあり、就職件数も伸びています。
しかし、この数字を見ても、「求人が少ない」という感覚は個人の思い込みではなく、ある程度共通した実態なのかもしれません。Aさんも、掲載され続けている求人に違和感を持ったり、条件が曖昧な募集に戸惑ったりしていました。
こうした中で、「理想の仕事を探す」というよりも、「現実の中で選べるものを見ていく」という考え方に変わっていくこともあるかと思います。
配慮の伝え方は大切だと言われますが、実際にはそれ以前の段階で、「条件を見直していく作業」があるようにも思います。
Aさんの体験を見ていると、
といった要素を一つずつ考えていくことで、応募できる求人が減っていく様子が見えてきます。
そのうえで、さらに企業との条件のすり合わせが必要になります。
たとえば、
といった点でも擦り合わせが必要になります。
つまり、「配慮をどう伝えるか」以前に、どの条件なら自分がギリギリ続けられるかを見極める段階があるのではないかと思います。
この段階が曖昧なまま進むと、選考に通っても続けられない可能性が出てきます。
一方で、条件を厳密にしすぎると、応募できる求人が極端に減ります。このバランスはかなり難しいところです。
Aさんも、いくつかの仕事を「できるかもしれないが無理そうだ」という理由で辞退しています。
少し感覚的な言い方になりますが、「理想」と「耐えられる範囲」の間を、何度も行き来するような過程だったのではないでしょうか。
就職活動をしていると、「受かった」や「落ちた」という結果に意識が向いてしまうと思います。不採用が続くと、「またダメだった」という感覚が残りやすいのも自然なことだと思います。
ただ、Aさんの体験を振り返ってみると、就職活動を合否で区切るだけでは見えにくいものもあるように感じられます。
例えばAさんの場合も、
といった経験が積み重なっています。
こうしたものは結果とは別に、自分に合わない条件を知る過程だったとも考えられるのではないでしょうか。
もちろん、就職活動中はそこまで前向きに捉えるのは難しいと思いますし、「受かりたい」という気持ちがあるのは自然なことだと思います。
それでも少しだけ視点を変えて、「今回は落ちた」ではなく「この条件は自分には合わなかったかもしれない」と考えてみると、受け止め方が少し変わることもあるのではないでしょうか。
求人票だけでは分からないことも多く、
といった部分は、受けてみて初めて見えてくる場合もあると思います。
そう考えると、就職活動は「合格を掴み取るもの」というより、
自分に合う環境を選んでいくプロセスとも言えるのではないでしょうか。
すぐに気持ちを切り替えられるものではないと思いますが、こうした視点があると、経験の積み重ねに少し意味を見出しやすくなるかもしれません。
Aさんが最終的に働くことになった職場は、配慮が十分とは言い切れない部分もあったようです。
障害者枠については「社会参加」という言葉がよく使われます。もちろん「社会参加」も大事ですが、求職者にとってはそれ以前に生活を維持するための収入を得るという側面の方が大きいと感じる人も多いのではないでしょうか。
この間でどう折り合いをつけるか、という話になってきます。
Aさんも、理想的な職場にたどり着いたというよりは、「ここならなんとか続けられる」という場所に行き着いたように見えます。それは消極的というよりも、きちんと現実を見たうえで選んだ結果なのではないでしょうか。
就職活動を続けていく中で、応募できる求人が徐々に減っていくように感じたり、条件をどこまで下げるべきか悩んだりすることもあると思います。
ただ、その中でもAさんは、
という形で、止まらずに動いていた点がやはり大きいのではないかと思います。
最初からうまくいくことは少なく、遠回りに感じることもあると思います。それでも動いてみた分だけ、合わないものがはっきりして続けられるラインが少しずつ見えてくるといった変化が積み重なっていきます。
その積み重ねが、結果として「自分でも選べる働き方」に近づいていくのではないでしょうか。「前よりは少し選び方が分かってきた」「前よりは無理をしなくなった」と前進を感じられることが、きっと出てきます。
Aさんも、最初からうまくいっていたわけではなく、むしろうまくいかない期間の方が長かったように見えます。それでも最終的には、「働き続けられている状態」まで来ています。
求人を「もう一件だけ見てみる」「もう一回だけ応募してみる」というそのくらいの小さな動きでも、流れが変わることがあるかもしれません。少なくともAさんの場合は、そうやって積み重ねた先で、「ここなら続けられそうだ」と思える場所に出会えています。
大きく前向きでなくても、自信がなくてもいいと思います。少しでも「次に進んでみようかな」と思えるきっかけになれば幸いです。