Column
2026.09.02
障がいを持つ当事者の中には、「面接官って意外と障がいの知識ないよね」というような話をする方もいらっしゃいます。
まず、面接が終わった後、「自分の言ったことがうまく伝わらなかった気がする」と感じることがあります。面接の際、緊張によって説明不足になったり、言葉足らずになったりすることは誰にでもあります。
その一方で、自分としては正しく説明したつもりなのに、面接官に違う意味で受け取られているように感じることがあります。
そうした経験から、「障がいについてあまり理解されていないのではないか」と感じる人もいることでしょう。すると、「実は、面接官は障がいの知識がないのでは?」という疑問につながります。
実際のところ、障がい者雇用の面接官はどの程度障がいに通じているのでしょうか。
本コラムでは、「面接官は障がいの知識がない」という声の背景を探りながら、障がい者雇用の面接の場で起こりやすいすれ違いについて考えてみたいと思います。
障がい者雇用の面接を受けるとき、多くの人は「障がい者雇用なのだから、自分の障がいについて理解してもらえるはず」と考えると思います。そのため、「面接官は障がいについて理解しているはずだ」と考える人は少なくありません。
近年、障がい者雇用は着実に拡大しています。法定雇用率の引き上げや企業の取り組みの広がりにより、障がい者雇用は以前より身近なものになりました。そのため、「企業も障がいについて十分に学んでいるはずだ」「面接官も障がい特性を理解しているはずだ」と期待することは決して不自然ではありません。
しかし、実際に面接を受けてみると、違和感を覚えることがあります。
たとえば、自分では丁寧に説明したつもりなのに話が深掘りされなかったり、必要な配慮について話したのに反応が薄かったりすることがあります。また、障がい特性について説明したにもかかわらず、十分に伝わっていないように感じることもあるでしょう。
さらに、選考結果が不採用だった場合には、「理解してもらえなかったから落ちたのではないか」「もっと障がいに詳しい面接官だったら結果は違ったのではないか」と感じることもあるかもしれません。
そうした経験が積み重なると、「障がい者雇用の求人なのに、面接官は障がいについて詳しくないのではないか」という疑問につながります。
ここで実際に「障がい者雇用枠の面接で、面接官の発言や質問に『変だな』『おかしいな』『障がいへの理解が足りないのではないか』などの違和感を持ったこと」について、当事者の方々の実体験を聞いてみました。
違和感を持った方の中には、面接後に応募した企業への入社の意欲が薄れたという声もありました。
では実際に、面接官はどのような立場で面接に臨んでいるのでしょうか。
まず知っておきたいのは、面接官は基本的に障がいの専門家ではないということです。
応募者から見ると、「障がい者雇用担当者」という言葉から高い専門性を持つ人を想像しがちです。もちろん、中には障がい者雇用に長年携わり、豊富な知識と経験を持つ担当者もいるかもしれません。
しかし、障がい者雇用以外の人事業務や労務業務と兼務している担当者の方が多数派です。実際、ある民間調査では「障害者雇用担当者の72.6%が他業務と兼務と回答。専任担当者は26.1%」とのことです。(※参考資料1に記載)
つまり、面接官によって障がいへの知識や経験に差があることは珍しくないのです。
また、厚生労働省や高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)などの公的機関は、企業向けに障がい理解や雇用管理に関する研修や資料提供を継続的に行っています。これは裏を返せば、企業側も知識や経験に差があることを前提としているとも言えます。
現在、セミナーや研修などもたくさん行われており、学びの機会はかなり多いです。しかし、応募者側からは経験豊富な面接官を選ぶことはできません。
面接官の中には「詳しい面接官」も「学びながら対応している今はまだ詳しくない面接官」もいて、その両方が存在していることを理解しておくと、面接に対する見方も少し変わるかもしれません。
面接で起きるすれ違いの大きな原因は、知識不足だけでなく、応募者と企業が見ているものの違いからも生じます。
応募者は、自分のことを「理解してもらえるだろうか」「受け入れてもらえるだろうか」という視点で面接に臨みます。そのため、自分が「どのような困難を経験してきたのか」や「どのような苦労があったのか」を説明することが多くなります。そうしてきた背景や気持ちを理解してほしいと思うのは自然なことです。
一方で、企業は「現在はどのように働けるか」「どのような配慮が必要か」「安定して勤務できるのか」を知りたいと考えています。応募者を評価したいというよりも、「入社後にどのように働くのか」「職場でどのようなサポートが必要になるのか」を確認しようとしている場合が少なくありません。
企業は、業務との相性や職場での再現性、入社後の定着可能性を見極めようとしています。これは応募者からすると、自分の苦労や困難よりも「働けるかどうか」ばかりを見られているように感じることもあるかもしれません。
障害者職業総合センターの調査でも、職務内容との適合性や合理的配慮、職場定着などが重視されていることが示されています。
つまり、
応募者側は「自分のことを理解してほしい」
企業側は「一緒に働くイメージを持ちたい」
という違いがあるのです。
このとき、応募者が過去を説明しているとき、企業は未来を見ているというすれ違いが生まれています。
どちらもミスマッチを避けたいという目的は同じです。しかし、この場合見ている方向が少し違うために、「伝わらなかった」「理解されなかった」という感覚が生まれてしまうのです。
つまり、企業が冷たいというわけではなく、単純に見ている角度が違うということがありえます。
障がいに関する知識が豊富だからといって、一人ひとりの状況まで理解できるとは限りません。逆に、知識が十分でなくても、真剣に話を聞こうとする面接官もいます。
障害者職業総合センターの調査では、必要な配慮を伝えたいと思っていても「どこまで話してよいかわからない」「言い出しにくい」と感じている人が一定数いることが報告されています。また、同調査では、障がいをカテゴリーごとの一般論だけで判断するのではなく、一人ひとりの異なる状況を理解することの重要性も指摘されています。
多くの面接官は、応募者について理解しようとしています。
そして、人は自分の経験や知識をもとに相手を理解しようとします。
しかし、面接官は障がいの当事者ではないため、当事者の困難を実際に体験することはできません。そのため、応募者が自身の状況についてできるだけ正確に説明したとしても、面接官が同じ意味で受け取るとは限らないのです。
例えば応募者が、「疲れやすいです」ということを説明したとします。
応募者は、「常に強い疲労感があり、軽い業務でも負担を感じる」という意味で話しているかもしれません。ところが面接官は、「休憩を取れば回復する疲労」を想像しているかもしれません。
同じ言葉でもそれぞれが持っている前提が違うときは、受け取り方も変わってしまいます。こうした認識のズレは、障がい理解の不足だけでなく、人と人とのコミュニケーションそのものの難しさから生じることもあります。
だからこそ重要なのは、面接官の持つ知識の量というわけではありません。
個別の状況や症状を理解しようとしてくれるか、という面接官が姿勢そのものが応募者にとって大切になってきます。
ただ、ここでも応募者側は面接官を選ぶことはできません。したがって面接の場では面接官にわかるように伝えるということが重要になってきます。
では、応募者としてはどのようなことを意識すればよいのでしょうか。
自分の障がいや特性について最も詳しいのは、自分自身です。
だからこそ、面接では自分の「困りごと」「対処法」「工夫していること」をセットで伝えることが大切になります。
また、「どのような配慮が必要か」だけでなく、「その配慮があれば何ができるのか」まで伝えられると、企業側も働く姿をイメージしやすくなります。
厚生労働省が示す合理的配慮の考え方でも、本人と事業主が対話を重ねながら必要な配慮を検討することの重要性が示されています。
つまり、合理的配慮そのものが「対話」を前提としているのです。
面接は企業が応募者を評価する場であると同時に、応募者が企業を見極める場でもあります。もちろん、企業側には障がいについて学び、応募者を理解しようとする姿勢が求められます。
例えば、「話をきちんと最後まで聞いてくれるか」「誠実に対応してくれるか」「理解しようとする姿勢があるか」といった点は、応募者にとって大切な判断材料になるでしょう。面接官が障がいに詳しいかどうかだけでなく、理解しようとする姿勢があるかどうかにも目を向けたいところです。
ここで当事者の方が「障がい者雇用枠の面接で、面接官の発言や対応について『安心できた』『理解があると感じた』『良かった』と感じたこと」を当事者の方へ質問いたしました。
安心できたと感じた方は「入社の意思が強くなった」、「入社の意欲が固まった」といった意見が多かったです。これらの回答に共通しているのは、障がいについて詳しかったことではなく、理解しようとする姿勢が感じられたことです。
「理解される」のを待つだけでなく、「理解してもらう」ための対話を意識することが大切です。
面接官が障がいに詳しくないことは決して珍しいことではありません。
実際には、知識や経験が豊富な面接官もいれば、学びながら対応している面接官もいます。そのため、「障がい者雇用だから詳しいはず」という期待との間にギャップが生まれることがあります。
しかし、知識が豊富だからといって個人の特性まで理解できるわけではありません。
また、応募者と企業は見ているポイントも異なります。面接では認識のズレも起こり得ます。
面接でのすれ違いは、知識不足だけでなく、お互いの視点の違いやコミュニケーションの難しさから生じることもあるのです。このコラムではどちらかというとお互いの視点の違いに着目してみました。
だからこそ、自分のことを最も理解しているのは自分自身だという意識を持ち、自分の特性や必要な配慮を相手に分かる形で伝えることが大切です。
「理解されるかどうか」だけに意識を向けるのではなく、「どうすれば理解してもらいやすいか」についても少しでも考えること。それが、納得のいく面接につながり、ひいては満足のいく就職への第一歩になるのではないでしょうか。
(1)『【障害者雇用担当者の実態調査】経営層からは雇用率達成に加え採用後の戦力化まで期待されるも担当者の7割以上が兼務、ヒト・モノ・カネの裁量ありは約3割と回答』(PR TIMES)
(2)令和5年度障害者雇用実態調査の結果を公表します(厚生労働省)
(3)雇用の分野における障害者への差別禁止・合理的配慮の提供義務(厚生労働省)
(4)障害者へのコミュニケーション上の配慮と工夫について~職場における情報共有の課題に関する研究の結果から~(独立行政法人 高齢・障害・求職者支援機構 障害者職業総合センター)
(5)-雇用されている障害者の合理的配慮、職務内容等の実態-調査研究報告書 No.176障害者の雇用の実態等に関する調査研究(独立行政法人 高齢・障害・求職者支援機構 障害者職業総合センター)