Column
2026.09.29
※就労支援には、就労移行支援、就労継続支援がありますが、「就労支援を利用して就職しました」という言い方をする方が多いため、ここでの就労支援とは基本的に就労移行支援のことを指しています。
SNSや口コミサイトなどで、「就労支援で学んだことは実際の仕事では役に立たない」というような意見を目にしたことがある人もいるのではないでしょうか。
実際、就労移行支援事業所ではビジネスマナーやパソコン訓練、グループワークなどを行うことが多くありますが、いざ就職してみると「訓練で学んだ内容と仕事の内容が全然違った」「資格を取ったのに使う機会がない」と感じることがあります。
一方で、就労支援を利用した人の中には「通って良かった」「働き続けるうえで役立っている」と感じる人も少なくありません。
では、本当に就労支援で学ぶことは意味がないのでしょうか。それとも、私たちが見落としているような価値があるのでしょうか。
そこで、就労支援を利用して就職し、現在弊社で働いている社員11名を対象に、詳しいアンケート調査を行いました。そのアンケート結果や弊社の採用に関わる社員へのアンケートをもとに、「就労支援で学べること」について考えていきます。
ここで就労支援の利用者アンケートの結果を紹介します。まず、支援機関に通って良かったことと改善してほしいと思ったことについて質問しました。
良かったこととしては「生活リズムを整えられた」「働く自信がついた」というものが多く見られ、改善してほしかったこととしては「プログラム内容が基礎的に感じられた」や「実際の勤務時間との差を感じた」などの意見が見られました。
厚生労働省の資料によると、就労移行支援の利用終了者のうち一般就労へ移行した人の割合は半数を超えています。つまり、就労移行支援を利用した多くの人が実際に働いていることになります。
就労支援では、ビジネスマナー、報連相、パソコン訓練、資格取得支援などが行われることが一般的です。
しかし、実際の仕事は企業や職種によって大きく異なります。事務職を想定して学んだパソコンスキルが活かされないこともありますし、取得した資格を使う場面がないこともあります。グループワークやコミュニケーション訓練が、仕事の中ではほとんど登場しないと感じる人もいるでしょう。
そのため、「学んだことと実際の仕事が違う」というギャップが生まれることもあると思います。そのギャップが大きいほど、「就労支援で習ったことは役に立たなかった」という感想につながりやすいかもしれません。
ここで就労支援の利用者アンケートの結果を紹介します。「就労支援機関で学んだが役に立たなかった経験」について尋ねました。
クラフトワークなど実務とは異なる訓練を上げた方がいました。一方で、半数を超える人が「なし」「思い当たらない」と回答しており、就職後に活用できなかったと感じている人は少ないことがうかがえます。
就労移行支援事業所に通えば必ず就職できるわけでもありませんし、職種ごとの専門スキルをすべて学べるわけでもありませんが、一定数の利用者が就労支援を経て就労しています。
ここで重要なのは、「就労支援は何を学ぶ場所なのか」を理解することです。企業ごとのルールや業務内容は、実際に入社してからでなければ学べない点が多くあります。
つまり、就労支援は「仕事のすべてを教える場所」ではないのです。利用者の中には、「資格を取れば大丈夫」「パソコンスキルを身につければ大丈夫」と考える人もいます。
もちろんそれらも大切ですが、障がい者雇用では離職が多いことが課題となっています。離職理由を見ると、業務スキルだけではなく、体調面や職場とのミスマッチ、人間関係なども大きな要因となっています。だからこそ就労支援では、報連相・生活リズム・自己理解・体調管理といった内容も繰り返し学んでいるのです。
また、事業所によってプログラムや支援内容、得意分野には違いがあります。利用者によって必要な支援は異なりますし、「役に立つ」と感じる内容にも個人差があります。
そのため、「就労支援で学べること」と「会社に入ってから行うこと」は必ずしも同じではないことを理解しておく必要があります。
就職後に振り返ってみると、就労支援で学んだことが役立っていたと感じるケースも少なくありません。
そもそも厚生労働省では、就労移行支援について、一般企業への就労が見込まれる障がいのある方に対して、一定期間「就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練」を行うサービスとしています。また、事業所内での訓練だけでなく、適性に合った職場探しや職場実習、就職後の職場定着に向けた支援なども行われます。
つまり、就労移行支援で身につけるものは、特定の業務で使う専門スキルだけではありません。「報連相」「体調管理」「時間管理」「自己理解」「配慮事項の整理」「遅刻や欠席時の連絡」「質問や相談をする習慣」など、一般就労に必要となる知識や能力を身につけ、本人に合った職場で働くための準備をすることも支援の役割といえます。
特に障がい者雇用では、「困ったときに相談できる」ことが重要になる場合があります。どれだけ能力が高くても、問題を一人で抱え込み続けてしまうと、体調悪化や離職につながることがあるため、特に「相談する」スキルは、就職後に役立つ場面があると考えられます。
こうした考え方は、厚生労働省などで紹介されている「就労準備性」の考え方とも一致します。
就労準備性では、
といった土台が整った上で、個々のスキルが活きると考えられています。

図.就労準備性ピラミッド
つまり、パソコンスキルや資格などの能力だけではなく、「働き続けるための基礎」も重要視されているのです。
ここでまた利用者アンケートの結果を紹介します。「就労支援機関で学んで役に立った経験」について尋ねました。
就職後に役立ったものとしては、ビジネスマナーや報連相、体調管理、自己理解などが多く挙げられました。就労支援が重視している内容と、利用者が後から価値を感じた内容には共通点が見られます。
就労支援で学んだ内容だけが評価されるわけではありません。企業によっては、「継続して通所できたこと」そのものを評価するケースがあります。
たとえば、
といった点は、企業側から見ると安心材料になることがあります。
特に障がい者雇用では、「長く働き続けられるか」が重視されることも少なくありません。そのため、資格やスキルだけではなく、「継続性」「安定性」「自己理解」といった部分が評価されることもあります。
ここで弊社の障がい者雇用担当者を対象に行った「就労支援機関を使用した応募者」に対するアンケートの結果を紹介します。
採用担当者へのアンケートでは、就労移行支援を利用していた応募者に対して「就労に向けた準備ができている」という肯定的な評価が多く見られました。特に、報連相や自己理解、体調管理への意識、成長意欲といった点が評価されているようです。
続いて採用判断と就労に向けてのアドバイスについても尋ねてみました。
実際に就労支援の利用者はプラスの印象を受ける可能性があるという意見がありました。つまり、就労支援の利用歴はそれだけで採用が決まるわけではありませんが、プラス評価になり得ると言えるでしょう。
一方で、実際の職場環境については入社後に慣れる必要があるという意見もありました。応募者にとって大切なのは、「就労移行で何を学び、それをどう活かせるのか」を説明できることだと言えます。
ここまで見てきたように、就労支援で学んだ内容と実際の仕事の内容が一致しないことは珍しくありません。そのため、「役に立たなかった」と感じる人がいるのも理解できます。
そもそも就労支援の目的は仕事を教えることだけではありません。「継続して通う習慣」「生活リズムを整える力」「他者と関わる力」「困ったときに相談する力」「自分の調子を把握する力」、こうした「働き続けるための土台」を身につけることも大きな役割です。
こうした違いが、「仕事の準備」を期待する利用者と、「働く準備」も重視する支援側との認識のズレにつながる場合もあるのかもしれません。もちろん、専門スキルや資格にも意味があります。しかし、それらを支える土台がなければ、長く働き続けることは難しいかもしれません。
「生活リズムを整えること」「相談すること」「自分の特性を理解すること」「無理をしない働き方を見つけること」のような「働き続けるための土台」を作ることも、大きな役割だと言えると思います。
最後に就労支援の利用者の方に自分の通っていた就労支援機関をおススメしたいかという問いのアンケート結果を紹介します。
自身の利用した支援機関を「おススメしたい」という声が多かったです。一方で、利用者の経験やスキルによっては、支援内容が合わない場合があるという意見もありました。
就労支援は一定数の人を就職につなげています。ただし、就労支援で学んだことが、実際の仕事でそのまま使われるとは限りません。
だからこそ、インターネット上などで「役に立たなかった」という意見も見られます。実際に今回のアンケートでも、実務とのギャップを指摘する声はありました。
しかし、それでも働く上で必要な基礎力や習慣が身につくことは、応募者・企業双方にとって重要だと言えます。
実際に弊社メンバーからのアンケートを通して、「就労支援を使用したが役に立たなかった」という評価は少なかったです。これは就職できた側からのバイアスがかかっている可能性はありますが、就職してからも就労支援の経験が「良かった」と思える人が多いことを表していると言えるのかもしれません。
また、就労支援に通っていた経験そのものが就職活動で評価されることもあるということがひとつ確認できました。つまり就労支援の価値は「自分の能力を育てる場所」というだけではないと言えるのではないでしょうか。
このコラムが、就労支援のさらなる理解や、自分に合った就職や働き方を考えるきっかけになれば幸いです。
(2)調査研究報告書 No.137「障害者の就業状況等に関する調査研究」(独立行政法人 高齢・障害・求職者支援機構 障害者職業総合センター)